
急がなくていい、森の歩き方。
去年の秋のはじめ、青森を訪れました。
まだ少し肌寒い早朝、眠い目を擦りながらバスに揺られて向かったのは、奥入瀬渓流。
この日は、FORESTONさんの「奥入瀬渓流ネイチャーウォーク」に参加。ガイドさんと、他の参加者の方(仲良しのおじさん3人組)も一緒になって、みんなで森へと歩き出しました。
澄んだ空気のなかに、水の音や、葉の揺れる音が重なっている。
普段、画面に向けている目も、耳も、ここでは自然とあちこちへ向かいます。
FORESTONの森の楽しみ方は、「ランブリング」。ぶらぶら歩く、という意味だそうです。
気になるものがあれば、足を止める。しゃがんでみる。
ふと、頭の上に広がる木々を見上げる。先へ進むことより、いま目の前にあるものを楽しむ歩き方。
ガイドさんが教えてくれる、キノコや苔のこと。その話を聞いては立ち止まり、近づいてのぞいてみる。時にはルーペをお借りして。
川を眺めながら歩くつもりで来た私たちは、ほどなくして、足元から目が離せなくなっていました。



のぞいて、見上げて、また立ち止まる。
歩いては立ち止まり、また少し歩いては、しゃがみ込む。
人生でこれほど長くコケを眺めた日は、きっとありません。
ルーペをのぞくと、さっきまでひとかたまりの緑だったものに、細かな形が見えてきます。ほんの小さな場所に、もうひとつ森があるようでした。
ガイドさんが教えてくれるたび、景色のなかから、それまで見えていなかったものが浮かび上がります。
道中のシダも、小さなきのこも。自分たちだけなら通り過ぎていた場所で、何度も足が止まりました。
自然がつくる形の不思議さ。
顔を近づけて、初めて気づく表情。
森の香りや、絶えず聞こえてくる水の音。
そのひとつひとつを追いかけていると、なかなか前へ進めません。
この日、一緒に歩いていたおじさん3人組とも、同じ小さな世界をのぞき込むうちに、すっかり仲良くなっていました。(最後には、ハイタッチをしてお別れ)
日が差し込むたびに変わる川の表情も、見上げた木々の姿も、足元に広がる小さな森も。そして、それを一緒に眺めた時間も。どれも心に残っています。



森を出ても、つづいていくもの。
普段は、机に向かい、画面のなかで仕事をする毎日です。
そんな私が、時間をかけてコケを眺めている。小さなきのこを見つけて、うれしくなっている。そのこと自体が、なんだか新鮮でした。
目の前にあるものを、ただ面白いと思う。気になったら、もう少し近づいてみる。自分には、こういう時間が必要だったのだと思います。
ガイドさんと歩いてから、その後も自然のなかで目に留まるものが増えました。川や滝を眺める、その途中。以前なら気にも留めなかったシダやコケに、目が向くようになったのです。
森を歩いた時間は終わっても、そこで知った楽しみ方は、その先にもつづいている。
少し疲れてしまったときや、なんとなく気分を変えたいとき。そんなときに、ぜひ訪れてほしい場所です。森をぶらぶら歩くうちに、何かに夢中になる時間が待っているかもしれません。
春は芽吹いたばかりの若葉が広がり、夏には緑が生い茂る。秋が深まれば木々は鮮やかに色づき、冬には雪が積もって、一面の銀世界に。
雨上がりには、葉っぱに残った雫が光を受けてきらきらと。同じ道でも、季節や天気が変われば、また違う表情に出会えそうです。
今度は、どの季節に来よう。
まだ見ていない奥入瀬を思うと、何度でも訪れたくなります。



